私たちの暮らしの中に溶け込み始めているIoTやAIなどのテクノロジーは、生活を楽しく、より便利にしてくれています。
不動産業界でもテクノロジーを活用したビジネスが多く誕生しており、IT企業や不動産会社も積極的に開発を進めています。
不動産オーナーにとってテクノロジーの導入は、競合物件と差別化が図れ、入居者に付加価値を提供できるので、不動産経営を成功させるには考えていかなくてはなりません。しかし、IoTなどのテクノロジーをどのように有効活用すべきなのかわからないものです。
そこで、今回はどのような不動産テクノロジーが生活の中で浸透しているのか紹介しながら、不動産業界についての未来を考えていきましょう。
目次
1.家電だけじゃない!不動産業界でもIoTやAIなどのテクノロジーは進んでいる
IoTやAIと聞くと、スピーカーに声をかけだけでテレビのボリュームを理想の音量にコントロールしてくれる、空調を快適な温度に設定してくれる、ベッドから起き上がることなく電気を消せるなど…。遠隔で家電機器を操作することを想像するのではないでしょうか。
すでに、生活の中に浸透し当たり前になりつつある「IoT」「AI」といったテクノロジーですが、不動産業界においても導入が進んでいます。
不動産オーナーにとって不動産テクノロジーの進歩は、競合物件との差別化や入居者にとっての満足度、管理工数の削減に繋がる大きな変化です。
次からは、どのような商品・サービスが普及しているのか紹介していきますので、所有物件の付加価値になるのか考察してみましょう。
1-1.鍵をなくす心配がない【スマートロック】
スマートロックは玄関のドアを鍵では無く、スマ―トフォンやICカード、生体認証などをかざすか近づくだけで開閉できる次世代型の解施錠手段です。実際に皆さんが良く手にしている鍵を持つ必要がないため、鍵を紛失する心配がありません。
スマートロックには2つの取り付け方法があります。専用の外付け機器をサムターンに設置するもしくは、今ある鍵を専用機器に交換する方法に分かれます。
外付けの場合は、サムターンに両面テープで装置を接着するだけなので、ドアノブを交換するような簡易的な工事は必要ありません。
もう一つの専用機器に交換する場合は、簡易的な工事が必要です。工事と言ってもプラスドライバーで専用機器に取り換えるだけのものから、穴あけ工事が必要なものまで商品によって工事方法はさまざまあります。購入する商品の取り付け方法を確認しましょう。
スマートロックの機種によっては、専用のアプリで遠隔操作ができたり、ホームスピーカーで施錠確認や開閉指示ができたりと非常に便利です。これにより、就寝前や外出時に「あれ、鍵かけたっけ?」とよくありがちな施錠忘れを防止できます。また、登録されている端末をクラウド管理できるので、家族間で共有しやすく第三者の介入を防げるといった利便性にも優れています。
鍵の共有だけでなく、解施錠の履歴が残りますのでいつ誰が鍵の開け閉めをしたのかがわかるので、子供の端末で解錠した場合に帰宅したと親のスマートフォンに通知してくれる機能があるスマートロックも登場しています。
ただし注意いただきたいのは、すべてのドアノブに対応しているわけでなく、基本的にはドアノブとサムターンが分離しているタイプに対応しています。各社のスマートロックによって対応範囲が異なりますので、製品ページをよく確認いただき、わからない場合は製造元に確認するとよいでしょう。
1-2.安心して暮らせる【ホームセキュリティ】
セキュリティと聞くと、防犯対策を思い浮かべるのではないでしょうか。確かに、犯罪の抑止力になるような商品もあり防犯対策という意味合いでは間違いありません。しかし、ホームセキュリティにもいくつか種類があり利用目的によっては防犯以外にも高齢者や子供、ペットの見守りサービスとして活用されています。
サービスによって以下の方法があります。
- GPS
- センサー
- カメラ
- 訪問
- 宅配
- 電話・メール
防犯の場合は、ホームセキュリティを提供している警備会社と提携することになります。物件周辺に防犯カメラや窓にセンサーを設置して、異常があったら警備会社の管理センターに異常信号が送られ、管理センターから対処員へ急行指示によって、物件に駆けつけてくれます。また必要に応じて、警察や救急にも通報してくれます。
見守りの場合、見守る対象者によって異なってきますが、室内カメラやセンサー、宅配・訪問、メールなどで安否確認してくれます。
例えば、今後増加するお年寄りの見守りサービスでは、洗面所やトイレといった生活に必要な場所にセンサーを設置し、一定時間を経過してもセンサーが感知しなければ異常事態として判断され、緊急信号を見守りサービスを提供している企業に送られ対処員が駆け付けて安否確認をしてくれます。
さらに防犯や見守り以外にも、先に紹介したスマートロックと室内カメラを組み合わせて、不在時の家事代行サービスを試験導入している企業があります。今でも、鍵を預けておけば不在時に家事代行を依頼するのは可能ですが、鍵の紛失や盗難を防ぐため管理を厳重に行う必要があり、別途費用がかかる場合もあります。
その点スマートロックと室内カメラを組み合わせることで、鍵を預けることなくスマートロックで遠隔解錠して、普段では見られなかった作業状況がカメラを通じて確認できるので、本格的に導入されれば、家を空けていても安心して家事代行を依頼することができるようになるでしょう。
1-3.あると便利な【宅配ボックス】
登録されている鍵やスマホ・ICカードなどの端末をかざすだけで荷物の受け取りが可能な宅配ボックスは、見たことやすでに利用している人も多いのではないでしょうか。
ネット通販サイトの充実により、利用頻度が年々増加している昨今、注文した商品を届ける配達員の人手不足が問題視されています。そんな宅配ボックスは、再配達の負荷を減らせるだけでなく、物流業界にも少なからず貢献できると言えます。
入居者が選ぶ賃貸物件に欲しい設備ランキングでは、単身者・ファミリー層のどちらからも支持されており、常にランキング上位をキープしています。そんな、荷物の受け取りだけだった宅配ボックスも進化しています。
荷物を配達されたらスマートフォンへ通知してくれる機能やカメラ付きの宅配ボックスでは、受け取った荷物の監視や複数の荷物を受け取ることも可能です。また、受け取りだけでなく宅配ボックスに配達を依頼したい荷物を入れて集荷依頼をできる宅配ボックスも登場しています。
1-4.居住者同士のコミュニティ【AI掲示板】
大型な集合住宅では、外部の業者が設備点検に入る際や理事会の議事録内容など、共用スペースに設置されている掲示板を使って居住者へ情報を共有します。従来の掲示板は、マグネットやピンで掲示物をとめて居住者へ告知するのが一般的ですが、進化した掲示板はAIを搭載しており、デジタルサイネージで情報を公開します。
パソコンから管理会社が情報を更新できるので、今までは管理人に送付してから掲示といったタイムラグがなくなり、最新の情報を居住者に届けられます。その他にも天気予報など、暮らしに役立つ有益な情報を居住者に提供できるメリットもあります。
掲示物の貼り替えといった作業がなくなるため、管理人の手間が減るだけでなく、印刷費や備品費などの経費削減につながります。また、閲覧方法は掲示板だけでなくスマートフォンからも可能で、閲覧頻度の向上やコミュニティ形成にも期待できます。
2.テクノロジーの進歩は管理業務を円滑にする
前述で紹介した通り、家電のみならず不動産業界のテクノロジーは日々進歩しています。
さまざまなものがインターネットとつながり管理できることで、不動産経営を行う上で重要な管理業務にも活用できます。
不動産管理では、管理会社に委託して管理しているオーナーも多くいるとは思いますが、テクノロジーをうまく利用すると、管理会社とのコミュニケーションや入居者管理をより円滑にすることが可能です。
次からは、不動産管理におけるテクノロジーの進歩が管理業務にどのような影響を与えてくれるのか紹介していきます。
2-1.入居者募集の物件内見が楽になる
入居希望者が物件の内見をしたい場合、物件を仲介している不動産会社と物件を見に行くことになりますが、実際に物件を見るには鍵を開けなくてはなりません。そのためには、不動産会社の担当者と物件オーナーとの間で鍵の受け渡しを行うか、物件周辺に鍵を保管して現地で鍵を取り出して開錠するのが一般的でした。
しかしこの方法では、オーナーに手間がかかるだけでなく、鍵の保管場所・管理方法が第三者に漏洩してしまうリスクや物件の開錠できなければ、内見ができず入居機会を逃してしまうといったリスクがあるため最善策とはいえませんでした。
先に述べたスマートロックのように、鍵を遠隔操作で管理できるようになることで、セキュリティ面が強化されただけでなく、内見可能な頻度を増やすことで成約確率を高められます。
また、入居希望者が仲介会社に依頼しなくても、内見希望を事前に予約して、都合のいい時間に物件を見に行けるサービスもでています。これにより、オーナーの負担軽減だけでなく、仲介会社の業務効率化につながっています。
この物件内見の進化は、スマートロックの利用だけでなく、他の方法でも取り組みを行っています。それが、VR内見と呼ばれる方法です。
専用のゴーグルやモニター越しに、あたかもその場にいるような映像を見ることで疑似体験ができます。これにより、わざわざ遠くまで物件を見に行くことなく、不動産会社の店舗で希望する物件の間取りや内装の雰囲気など把握できるので、間取り図など平面では読み取れなかった情報をVRでは現実に近い形で知ることができます。
また、VR内見は遠く離れた場所からでも、実際に物件を訪れたような感覚で内見できるといった利点の他にも、早朝や夜間といった内見が難しい時間帯の部屋を体験できます。
日光の入り方で部屋の印象は大きくことなってきます。現実ではすべての物件でこの時間差を体験するのは、ある程度の時間の確保ができなければ難しいですが、VRなら訪問できない時間帯も事前にデータとして撮影しておけば体験が可能です。
不動産経営を行っているオーナーにとって空室を埋めることは収入に直結する重要なミッションです。物件を見に来る=入居する可能性が最も高いため、物件内見は、入居者募集で一番重要といっても過言ではありません。
そのためには、スマートロックやVRを活用して内見機会を高めるのは有用といえるでしょう。
2-2.退去時にかかる費用を削減
賃貸物件に入居してくれている大抵の方は、入居者の属性によって退去時期や頻度は異なるもののいずれ退去してしまいます。これは、不動産経営を行うオーナーにとって避けては通れない道です。
次の入居者を募集する前に退去者が出た場合、汚れ具合にもよりますが、水回りの清掃やクロスの貼り替えなど原状回復しなくてはなりません。しかし、ハウスクリーニングや場合によっては設備交換など費用が発生するものです。
原状回復の中で鍵の交換をする場合があります。鍵の交換は、退去した方が合鍵をもっている可能性があるため、最近ではセキュリティ面の観点から退去の際に交換するケースが増えています。また、鍵の交換は物件管理に関する問題にあたるため、国土交通省のガイドラインでは、貸主が負担することが妥当とされています。
その際に生きてくるのが先に紹介している「スマートロック」です。スマートロックは解施錠できる端末をクラウド管理できることはお伝えしていましたが、退去者の端末を解除してしまえば鍵の交換が不要になるため、交換にかかる費用は発生しません。
また、次に入居してもらう方にセキュリティ面の管理をきちんと行っているのもアピールできます。
3.賃貸物件だけでなくホテル業界でも活用されている
ここまで紹介してきた不動産テクノロジーは、賃貸住宅や持家で利用されているものだけではなく、宿泊施設であるホテルでも活用されています。
専用のアプリを使った、室内の温度や湿度を調整するといったホームコントロールの機能以外にも管理できる項目は次の通りです。
- チェックイン・チェックアウト
- 客室の予約状況確認
- 宿泊名簿の管理
- 入金管理
- 多言語翻訳
ホテル業界の市場規模は2012年から増加傾向になっています。ちょうどこの時期に訪日観光客を増やす策として観光ビザの緩和・免除が影響していると言われています。それに伴い、ホテルの新設やリニューアルを積極的に行ってきました。
2020年には東京オリンピックが開催されるのもあいまってホテル利用者は増える一方、丁寧なサービスが要求されるホテルでは、フロントマンや清掃スタッフなど多くの人件費が必要なビジネスのため、ホテル業界は利益率の向上が課題となっています。
そこで、先に述べているホテル運営に必要な業務を、不動産テクノロジーによって業務効率を改善し、人件費削減による利益率の向上を期待した取り組みを行っているホテルもあります。
4.不動産テクノロジーを駆使した手軽さ・気軽さが未来の賃貸住宅の形
テクノロジーは物凄いスピードで日々進化をしています。しかし、日本の不動産テクノロジーはインドやアメリカに比べると大幅な遅れをとっているのが現状です。
最近では、インドのホテルチェーン大手であるOYOとヤフーが合弁会社を設立し、「OYO LIFE」という賃貸住宅サービスを2019年3月よりスタートさせています。
不動産オーナーから物件を一括借り上げして借主に転貸する、いわゆる「サブリース」のサービスです。
オーナーから借り上げる物件は、「エリアが一都三県」「駅から徒歩15分以内」など、OYO LIFEが定める8つの必須条件とOYO LIFEの担当者が内見し、収益性が見込めると判断された物件が一括借り上げの対象になっています。
オーナーは、物件を一括で借り上げてもらえるので、空室による家賃収入が得られないリスクがなく、毎月安定した収入が得られます。他にも、OYO LIFE物件というブランドを掲げられ、室内もIoTによる設備が充実されており付加価値を提供できます。
入居者は貸主から直接物件を借りることになるので、仲介手数料がかからず、敷金・礼金も不要なため初期費用を抑えられます。また、IoT化された家具家電が備え付けられている物件を借りるので、生活を整えるのに必要な費用も削減できます。
一見、アパート建築から管理を請け負うハウスメーカーが提供しているサブリース契約によると何ら変わらないように思えますが、ホテルチェーンならではのメソッドが含まれています。それが、ホテルに泊まる感覚で物件選びができることです。
宿泊するホテルを選ぶ際、室内のイメージや館内設備、料金などホームページの情報から判断して予約をとりますが、予約する前に現地を見に行く人は少ないでしょう。
OYO LIFEは物件ページから気に入る部屋を見つけて、室内のイメージ画像や料金、入居条件から借りたい物件を予約すれば、最短30分で入居手続きができます。このスマ―トフォンで簡単に入居や退去の手続きができるのは、他のサブリース会社には無い特徴といえます。
オーナーは管理の手間から解放され、そのうえ家賃収入が得られます。入居者は旅行に行く感覚で部屋を借りる手軽さ、次の物件に移り住むことができる気軽さが未来における新しい賃貸住宅の形と呼べるでしょう。
まとめ
オーナー負担でどこまで対応すべきか賛否はあると思いますが、IoT家電以外にも入居者に提供できる価値は増えています。
IoTやAIといったテクノロジーが生活の中で、今よりも当たり前になれば、IoT化された賃貸物件が当たり前になってきます。そうなれば、現在入居者に付加価値として提供されているIoT賃貸住宅が付加価値にならない時代が来るかもしれません。
また、時代の変化に伴い、入居者ニーズは多様化してきています。不動産テクノロジーによる今までと違った形の賃貸住宅の提供や不動産管理の業務効率を改善していく必要があると言えます。
日々進化する時代では不動産テクノロジーにも意識を向けることで、新たなサービスをいち早く収集できるだけでなく、導入までこぎ着ければ、他物件との差別化と呼べる価値を入居者に提供できるでしょう。